2006年02月27日

少しばかり「熱情」ソナタ分析邦訳―――ささやかな御礼として

以前、シェンカーの"Der Tonwille"の英訳を
欲しい欲しいとこのブログにてごねてみた。
そうしたら奇特な友人が私にプレゼントしてくれた。
2万円を越える超高価な本なのに。
実にうれしかった。感謝することしきりである。
私はシェンカーの音楽理論書を読む時には
ドイツ語の原文を基本的に読んでいるが
やはり英訳があったほうが迷わなくて済む。
それは悲しい哉、ドイツ語の力が英語力にまだ
及ばぬことの証左であったりする。

"Der Tonwille"には多様な楽曲の分析が見られる。
そのうちのベートーヴェンの「熱情」ソナタに関する箇所を
わずかばかり以下に邦訳・公開する。
訳の下地は以前からできていたが
このたび英訳を手が手に入ったことで
校正作業が充分にはかどった。
拙い訳であることは疑いをえないが
本をプレゼントしてくれた友人に対する
私なりのささやかな御礼になればと思う。

なお、続きに関しては
追って何らかの方法で公開するつもりでいる。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ作品57「熱情」

第一楽章(Allegro Assai)

第一楽章のソナタ形式は次のように進行する。

第一主題
前楽節 第1-16小節
後楽節 第17-35小節
転調
第二主題
  第36-51小節
第三(終結)主題
  第51-65小節
展開部
  第65-136小節
再現部
  第136-204小節
コーダ
  第204-239小節
ピウ アレグロ(ストレッタ)
  第239-262小節

根元線の進行(Urlinie-Zug)の一切の細部と拍節全体とを無視するなら、 以下に示すような根元線の音の譜表が現れてくる。

fig1.jpg

この作品の特徴としてただちに我々の注意を引くのは、c(ces) と a(as) の音が長く留まる一方で、 その間に存在する b と g の音については、 第三主題が終結する折にほんのわずかの時間だけ立ち寄られるにすぎず、 コーダとストレッタを待って初めて労作がなされる、ということである。 かくして、下方分散(Abwärtsbrechung) c-as-f の印象が ―――あたかも第一小節のアウフタクトの下方分散が全体の運命となるかのように――― 優位を占めるのである。

次に目立つのは、楽章が始まるとすぐに、 ^5 が隣接音 ^6 によって明確に規定されて根元線動機(Urlinie-Motiv) c-des-c が呼び起こされるということであり、以後はこの動機が楽章のあらゆる部分に充満し、また c と as の優勢も必然的に伴われる。

最後に我々は、この楽曲の最も深遠な秘密を理解する。 それは即ち、根元線動機の隣接音によってもたらされる圧力に基づく全部分の風変わりな連鎖である。 第一主題の後楽節と転調部は第二主題へと手を伸ばす。 第二主題では再び前楽節が後楽節へ手を伸ばし、そして第二主題の後楽節はついには終結主題へと手を伸ばす。譜例1の根元線楽節(Urlinie-Satz)において、スラーが交差している様子を参照されたい。



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